創業の背景
創業の背景(創業時記述のまま)
ハムソーセージ製造会社に勤務し、商品開発に携わる中で食肉加工の原則の面白さに目覚めました。ハムソーセージはヨーロッパにおいて発達しましたが、まだ冷凍技術がなかった時代に用いられた、乾燥、砂糖漬けなどと並ぶ塩蔵という技法を用いた保存食品でした。
塩蔵技術を用いるハム、ソーセージの製造には文字通り塩の力が大きく関係し、新鮮な肉に適正な塩分を与えると旨みや粘り気が引き出されます。その面白さに目覚め、自宅でソーセージ、ハンバーグ、ギョウザを調理していく中で出会ったのがシウマイでした。
大学を卒業して社会に出れば、社会人として約40年あまりの時間をすごすことになります。その時間を3つにわけ、最初の13年で社会を知り、次の13年で生きていく道を知り、最後の13年はその仕上げの時期と考えており、現在のハムソーセージ会社での勤務も14年目を迎える来年、最後の時期へとステージが変わっていきます。
最後のステージとなるこれからの日本を考えると、これまでの社会システムが立ち行かなくなり、生きていくには働き続けなければいけない時代となり、子供たちはよりシビアな時代を生きることになると考えていました。私自身が生きていくために、創業した事業が時代を超えた永続性を保ち、また、子供たちの生きていく寄る辺となればとも強く思います。
時代を超えた永続性は、信頼、安心によって支えられます。創業後、3年、5年ではなく30年、40年と続く事業を起こそうを考えています。取り扱う品物はシウマイと甘酢肉団子、叉焼です。取り立てて新規性のある品物ではありません。しかしながら大量生産、大量消費時代を実現した現在の小売システムとそれを支えた物流事情に商品が適応することによって、失われてしまったものがあります。競争社会において弱者たる当店は、よりお客様に近づき、扱う商品の成り立ち、伝統を理解しながら時代に合わせた刷新を加え、人々を幸せにする食としてのあるべき姿を愚直に追い求めていくことが大切だと考えています。
キーワードは伝統と革新であり、提供される商品は私という人間性の投影されたものであるべきです。
現代のシウマイとこれからの展望
私の作りたいシウマイは中国料理としてのシウマイではなく、お肉屋さんのシウマイです。もとはモンゴルで生まれた料理ですが、ヨーロッパのソーセージ然り、挽肉料理は食材の有効利用の好例といえます。そのままでは硬いところ、細かい肉片、においのあるところが利用されます。硬いところ、細かい肉片は挽肉にすることで小あじのあるおいしさを生み出し、挽くことで香辛料や調味料によってにおいをマスキングしやすくなります。
戦後日本が行動成長時代を迎えるにあたってそれを支えた人々の胃袋を満たす食料が当然必要になりますが、まだ国力のひ弱だった時代、肉は高級品。カサ増しのため肉の代用としてでんぷんが使用されました。実際群馬県にはたまねぎとでんぷん、肉は入らず豚脂だけの餡を皮で包んだシウマイが存在します。
日本の総合スーパーマーケットの代名詞とも言えるダイエーが創業したのは1957年、昭和32年のことです。セルフでの大量販売方式は瞬く間に広まり、人々は日々の食料をスーパーマーケットで調達するようになります。この時期からあらゆる食品の適応が始まったと考えています。そしてダイエーが業績不振に陥るのは1990年代。バブルが崩壊し、このあと日本の高度消費社会化はさらに加速することになります。それを加速させた一因としてインターネットの爆発的普及を外すことは出来ません。人々は自分にぴったりの品物を探し始めたのです。その結果、無数のニッチが生まれることになります。コロッケの専門店、メロンパンの専門店、”銀だこ”の流行などかつては思いもよらなかった様々な専門店が生まれたことはその好例といえます。当時の主たるPB化の流れのように、コモディティ化する食品とそれらはゆっくりと分化し、おそらく、中間に位置していた商品は徐々にその存在感を失っていったことでしょう。
それから30年、少子高齢化が肌感覚で感じられ、縮小し始めた社会の中で、人々の消費のダイナミクスはその振れ幅を大きくしていると感じます。お金の使い方が、より自分の価値観に忠実に、大胆になったように思えます。
私のシウマイ
関東では、シウマイといえば崎陽軒でしょう。崎陽軒では原料肉に大貫豚のハラミを使用しているといわれています。大貫とは、鶏でいえば親鳥、または廃鶏です。肉は大きく、硬くなり、また、独特のにおい(人間で言えば加齢臭)が出てきます。あの独特の風味は原料と、それらの特性に従った製法に由来するものです。
豚ハラミは1頭から4~500Gしか取れません。豚が1頭約100KGですから、よく言えば希少部位、悪く言えば魚で言う外道扱い、それだけでは商売が出来ない。そうした特性から加工原料にまわされたことは容易に推察できます。
対して、日ごろスーパーマーケットで見かけるシウマイに注目してみてください。時代の変化からここ3年ほどでだいぶ様変わりしましたが、主に日配コーナーでは10個で100円、12個で100円、おまけにトレーに盛り付けられ、ラップされて紙箱にまで収まったものが・・・・日配コーナーは主に賞味期限の短い、または消費期限の設定された商品が多く販売されるコーナーです。当然ロスが多い。それを見込んで粗利率は高めに設定される。もし40%の粗利率が設定されているとすれば100円で販売されている商品の納品原価は60円。しかもそれだけの資材を費やし、工場から売り場までの物流を経由して、です。そうした品物がどういうものになるか、想像に難くないでしょう。
もう少し日配コーナーでのシウマイに注目してみます。売り場で、いつ値引きを始めるかというのは商品によって設定されたもとの賞味期限による場合が多く、販売店によって様々なルールがあるでしょうが、賞味期限が長ければロス率が低くなるのは道理です。メーカーはおいしさと賞味期限のバランスに苦慮するわけです。
食品の劣化を防ぐ点において、自由水、酸素、栄養分、とくに自由水が重要です。微生物が生きていくのに使われる自由水をコントロールすることでその繁殖を抑えることが出来ます。冒頭に記述した砂糖漬け、塩漬け、乾燥はいずれもその自由水を動きづらくさせることで長期の保存を可能にしています。
しかし、砂糖漬け、塩漬け、乾燥はいずれも現代の我々が頻繁に口にするに堪えうる味覚ではありません。それらの技法を用いず、自由水をコントロールするには澱粉、糖類等を主とした粉類でそれらを抱え込むという技法を用いる場合があります。また、別の観点から言えば水分を抱え込むという特性は増量剤の役目も果たします。価格を抑え、カサ増しも出来る、しかし、肉以外のたんぱく質を加えれば本来の味わいからは遠く、かけ離れていくため、何かで補うことになります。これらの矛盾を食品添加物で埋めようとしている食品を数多く見ることが出来るでしょう。本来、出来立てをその場で食すことが出来れば不要となる添加物はどれくらいあるでしょうか。
私ができることは、引き算思想で原材料を絞り込み、出来たものを近隣のお客様に消費していただく、原点回帰的な商品作りで実現したシウマイ、肉団子、叉焼を提供すること。小さく、スピーディに尖りを持ったビジネスを展開していくことで、自分を成長させ、家族の未来にわずかばかりの寄る辺を設け、社会に貢献していくこと、と考えています。
店主